技術ハイライト Technology highlights

ホーム技術ハイライトセンサモニタリングとビッグデータを活用した次世代マネジメント手法の研究開発

「内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)*1」の下で、「インフラ予防保全のための大規模センサ情報統合に基づく路面・橋梁スクリーニング技術の研究開発と社会実装」の研究開発を行っています。

本研究開発事業は、当社、東京大学3機関(工学系研究科、生産技術研究所、先端科学技術研究センター)の4者により、舗装と橋梁を対象にしたモニタリングによる状態の把握、データの多量収集技術、統合的データ管理および分析等の基礎研究を行い、インフラ管理者・利用者双方から得られる情報を大規模に収集・解析し、絶対評価と相対比較により効果的にスクリーニングする技術開発を行います。

  1. 総合科学技術・イノベーション会議が、科学技術イノベーション創造のために府省の枠や旧来の分野の枠を超えて創設したプログラムです。産学官連携により、基礎研究からその出口までを迅速につなぎ、科学技術イノベーションを戦略的且つ強力に推進することを目的としています。

業務車両を用いた大規模路面評価

舗装に関しては、道路モニタリングのための新システムを構築しました。路面性状を精度の良いIRI(International Roughness Index:舗装の乗り心地を客観的に評価する指数)として数値化・可視化する機能、IRIの経時変化特性を分析する機能、ポットホールやマンホール、段差といった実際に生じている損傷の抽出機能などを提供するもので、本研究事業で実証試験※2を行いました。更に本システムに、舗装のLCCを考慮した修繕計画の策定システム(道之助)を連動させ、「道路モニタリングサービス」として製品化し、一部のサービスについては提供を開始しています。

  1. 高速道路管理会社、国土交通省、地方自治体(千葉県千葉市、千葉県旭市、千葉県香取市、大阪府豊中市、大分県別府市、静岡県浜松市)からそれぞれ実証実験フィールドを提供いただき、綜合警備保障株式会社、阪急阪神ホールディングス株式会社、大分交通株式会社、株式会社NTTフィールドテクノ各社の協力を得て、研究成果の社会実装(業務車両を用いた大規模路面評価、地方自治体・住民への情報提供など)を見据えた実証実験を行っています。

路面性状の計測は、業務車両やパトロール車両に測定機器となるスマートフォンを設置することで行います。走行時にスマートフォンのセンサから得られる加速度、角速度、位置情報、画像データを、iDRIMSと呼ばれる専用アプリにて収集し、IRIの算出を行います。計測データは、収集後にクラウド上へ一括して送信します。

100台規模のデータ収集。車両提携:ALSOK 他、フィールド:千葉市、豊中市 他、データ:GPS、加速度・角速度、音声、動画、取得方法:業務後にサーバーへアップロード
業務車両によるデータ収集

クラウド上に蓄積された計測データに対し、ビックデータ解析を行い、路面の異常箇所(ポットホールや段差など)の抽出処理を行います。処理結果は、クラウド上のGIS地図画面で確認でき、各種のレポートを閲覧することができます。さらに、アセットマネジメントの機能として事後保全型、予防保全型、予算制約型といった事業運営に資する舗装修繕計画も策定できます。

大規模ビッグデータ処理・可視化基盤技術。超高速DBエンジン(従来比1000倍)を活用した大規模う総合処理。
ビッグデータ解析による異常箇所の抽出

この技術を用いれば安価で、効率よく、高精度な路面性状の把握が可能となり、道路管理者が路面の異常箇所を早期に発見・補修することによる住民サービスの向上と、効率的な舗装修繕計画の策定による道路維持管理費の削減などを実現できます。さらに深層学習(Deep Learning)を用いた画像解析技術の研究開発を実施しており、損傷の種別や大きさの自動判定を目指しています。

橋梁の一括長期モニタリング

橋梁に関しては、長期モニタリングのための新たな無線センサユニットを開発しました。高速道路の連続高架橋は、桁下空間が狭く電波障害が発生しやすい環境です。また、アーチ橋や斜張橋等、立体空間面の大きな橋梁になれば通信障害に加えて、使用する際の消費電力や電波指向性も課題となり、通信ネットワーク形成が非常に厳しくなります。これらの課題に対して、最先端の技術を駆使した無線センサユニットを開発することで、橋梁の長期モニタリングが可能になり、健全度を自動診断するシステムや、災害時の車両通行可否を判定するシステムに応用することができます。

橋梁モリタリングシステムと橋梁の通行可否判定支援システム
橋梁の長期モニタリングに対応した無線センサユニットの応用例

この無線センサユニットは、東京大学 先端科学技術研究センターにて開発され、同 工学系研究科および当社によって、幅広い利用用途を探るべく実証実験を行っているものです。

提供するユニットは2種類のMEMSセンサを使い分けています。対象構造物やモニタリングステージによって使い分ける形式として、高精度版と省電力版を提供します。また、無線部分は共有化することでコストダウンを図っています。高精度版は震度1未満の微弱振動(10μG程度)から大地震レベル(5G)まで計測可能な性能を持ち、一方の省電力版は、センサ性能は劣るものの、単1電池4本で6年程度の連続計測が可能で、トリガ待機機能を用いれば20年程度の計測も可能になります。共有化した無線通信部には、独自のルーティングレスマルチホップによる高効率で高速、低消費電力な通信を実現しており、モニタリングに必要な多点同期については最大1KHzの同期サンプリングも実現しています。これらの機能を有した無線センサユニットは、2017年春の時点では他に類を見ない高性能なハードウエアです。今後は歪ゲージやカメラも含め、多種多様なモニタリングニーズへ対応可能な無線センサユニットの継続開発を予定しています。

実証実験では、桁下空間が低く通信環境の悪い首都高速道路において全長360m、最大66ノード、一般道においては河川に架かる全長900mの橋梁で47台のノードを用いた交通振動レベルの相対比較を実施し、その性能を検証しています。計測最終目標としては10kmでの多点同時計測を目指しています。また、熊本地震後には余震による高架橋の応答を、P波、S波共に捉えられる精度で、多点同期計測検証も実現しています。さらに、斜張橋においてはケーブル振動発生状況の確認やケーブル減衰比の同定、振動イベントの抽出等で実運用しています。

センサユニットは他の大学やコンサルタントでも既に利用されており、その性能については様々な方面で確認されています。

省電力無線センサネットワーク技術。同時送信フラッディング
電波が劣悪な環境下でも動作する省電力無線センサネットワーク技術例

  • 「DRIMS®」(車載型ハードウェア、計測用ソフトウェア、分析用ソフトウェア)は東京大学が、スマートフォン用計測アプリは東京大学とJIPテクノサイエンス株式会社が共同開発したシステムであり、本システムのコンソーシアムの参画会員(東京大学、京都大学、長崎大学、長岡技術科学大学)により海外・国内への展開を図っています。